書籍『病院は東京から破綻する』から考える医療経営(医療・介護の経営コラム08)

先日、今回の著者である上昌広先生の記事をご紹介頂く機会があり、その中に今回の著書の記載があったため購読してみた。概ねの内容としては『首都圏』(東京都・埼玉県・千葉県・神奈川県・茨城県)には日本の多くの人口が集中しているのだけれども、医療サービスを提供する側である医師・看護師・コメディカル(書籍内では理学療法士)が人口比では不足している状況であり、人員確保が困難な状況に陥りやすいことから医療体制が破綻するリスクが高いというものだった。

医療機関が破綻してしまう要因としては国策に起因するものであったり、地域の行政に起因するものであったりと様々な要因が挙げられていたが、私は医療経営コンサルタントであるので、どうしても外部環境に因るものではなく内部環境(医療機関の組織内の環境)に起因するところに深い関心を持った。たとえ外部環境に様々な課題が存在するとしても、それらが医療機関の期待通りに変化するものではない。医療機関は外部環境がどのような状態になろうとも、外部環境に適応し自分達の手で成長するしか方法は無いのである。著者が挙げる内部環境に起因する問題も私が常日頃において思うところと重なる点が多く、納得しながら読み進めることができた。以下に特に共感できたポイントについて述べたいと思う。

患者にも医師にも選ばれる医療機関になる

首都圏では医師をはじめとする看護師などの人材が不足しているということだが、医師が不足してしまうことは首都圏のみならず、全国の医療機関においてその機能を維持するために必要不可欠な要因の一つであることはいうまでもない。医師がいなければ診療はできないため、原則的に看護師やコメディカルは具体的な患者の治療に向けた行動をとることができない。当然、医師が不足すれば十分な医療体制も整えることができないのである。

そのように考えると、医療機関が破綻する大きな要因の一つは医師不足であることは想像に難くない。医療機関においては看護師・コメディカルなど、様々な知識・スキルを持った人材が必要であるが、最優先に確保する必要があるのはやはり医師なのである。だからといって闇雲に医師を確保することは経営目線で捉えると望ましくはなく、私としてはもう一歩踏み込んで考えたい。ここは医療機関としてのその地域における役割を明確にした上で計画的な確保を行う必要があると思う。医師の人員計画を策定し、年齢層・性別・専門診療科・勤務期間などを想定したうえで継続的に医師の確保と育成に努める必要があるといえるだろう。医師の確保のための人員計画を着実に進めるためには医師に選ばれる医療機関になる必要がある。そして、その結果として安定した医療サービスを提供することができるようになり、地域の患者から選ばれ続ける医療機関になることができるだろう。

優れた医療機関になるための条件

当書では良い医療機関の条件として「医療機関の資金力」と「リーダーの実力」を挙げている。必要とされる条件はこれだけではないといえるが、必要なものであることは確かだ。中でも私としては特に「医療機関の資金力」に殊更重視したい。「リーダーの実力」も重要であるが、医療機関としては資金的な体力の有無が事業展開に大きな影響を及ぼすと考えるからである。例えば先述した「医師の確保」を進めるために医療機関内のハードやソフトの環境を充実させるということも程度はあれども必ず必要になる。そのためにはやはり医療機関の資金力を充実させることが重要であり、高利益体質を作り上げることが求められる。著者は高利益体質を行うには「選択と集中」「診療報酬以外の収益源の充実」「医療サービスにおける付加価値の向上」が必要と説いている。

医療機関も事業を継続させるためにはキャッシュが必要であるところは一般企業と同じだ。大企業のような潤沢な資金力を持たない中小企業が事業を継続させるためには、自分たちの顧客を明確に絞り込み、彼らに選ばれる商品やサービスを提供する必要がある。まさに「選択と集中」である。医療においてもそれは変わることはない。対象とする顧客(利用者)を明確に設定し、彼らが求める医療サービスを提供する必要が今後ますます重要になるだろう。これを実行するためにはそれぞれの医療機関のある地域の地域医療をデザインすることが重要だ。ありもしない医療ニーズに対して「選択と集中」を行っても意味がない。地域の医療ニーズをしっかりと見据え、マーケットインの考えで行うことが必要だといえる。

次に「診療報酬以外の収益源の充実」であるが、これも今後の医療機関の経営において大きな課題の一つになるだろう。診療報酬のみに依存する経営体制は一般企業でいえば一つのお得意様からの収益に依存している状態と同じであり、いわばお得意様に企業の生殺与奪の権利を握られているのである。意に反することがあればたちまち経営破綻に陥ってしまうことも考えられる。全体の診療報酬は今後上がることは考えにくい。診療報酬に依存する経営体質の医療機関は今後経営破綻のリスクは高まっていくだろう。診療報酬だけではなく人間ドックや保険外診療などによる医業収益を高め、収益源を分散させるための努力を行う必要があるといえる。

最後の「医療サービスにおける付加価値の向上」であるが、多くの医療機関は付加価値を高めようとする認識が希薄だと感じると著者は述べており、私もその点について同感である。医療もサービス業である以上は付加価値が存在する(これは理論的に算出できる)。しかし、それらの多くは建物や医療機器などのハード重視によるものであるため、キャッシュは先行して消費され、さらに固定費も増加し赤字リスクが高まる。一方でソフトによる差別化についてはあまり認識されていないように感じる。医療に関してはハードよりもソフトによる差別化の方が模倣困難性は高い。また医療は利用者の「健康」を対象としたサービスであるため、ソフトからの差別化は利用者に大きな選択基準になり得るものである。医療機関の経営者はソフトの側面から付加価値を高めるアプローチを検討する必要があるだろう。

今回の書評のまとめ

今回は書籍『病院は東京から破綻する』から医療機関経営についての所感を述べてみた。著者は首都圏における医療機関の経営破綻のアプローチから現代医療制度の課題を説いているが、医療機関の経営破綻のリスクは首都圏のみならず日本各地に存在するものである。医療機関がそれぞれの地域における存在意義を確立し、安定した資金力を有する経営体質を創り上げることによって地域の医療体制は維持される。そのことをあらためて実感することができる内容だった。これは医療機関の経営者のみならず、介護施設の経営者にとっても価値あるものではないかと思う。是非一読してはいかがだろうか。

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