意思決定は慎重に!~設備投資をする際に確認すべきポイント~(医療・介護の経営コラム11)

あなたが経営に携わっている医療機関や介護施設では、設備投資を行う際にどのようなプロセスを経ていますか。設備投資の起案者が稟議書を作成し、投資額の規模に応じた決裁権限者に稟議書を回して全ての関係者から承認を受ければ晴れて業者と契約…多くの場合はこのようなプロセスに近いのではないでしょうか。

医療機関では患者が利用する外来や入院の環境設備、放射線機器、検体検査機器、生体検査機器、手術機器、電子カルテシステム、医事システムなど、非常に多くのハードに対する投資が必要です。しかも投資を行う頻度も多く、毎年数百万~数億円の大型設備投資を行う医療機関も少なくありません。一方、医療機関と比較すると投資規模は少額である場合が多いですが、介護施設も多くのハード投資が必要なのは同様であり、医療も介護も多額な投資が先行して要求されるビジネスモデルであるといえます。

設備投資は導入時に購入に必要な資金が先に支出され、その回収は設備稼働後に初めて行われるのが一般的です。これはどんな設備投資でも同様であり、どれだけ早く支出額を回収して利益を生み出す状態に変えることができるかが重要になります。利益を生み出す状態になれば、その設備投資は成功と判断できますが、そこに至らなければ失敗と判断せざるをえないでしょう。高額な設備投資が失敗した場合、「借入金の増大」「経営資源の枯渇」「資金繰りの行き詰まり」など、医療機関や介護施設の経営において多大な悪影響を与える場合があります。今回はそのような失敗に陥らないために「設備投資の際にチェックすべきポイント」を挙げてみようと思います。

設備稼働による収益増加や付加価値改善の効果を適切に把握する

設備投資した機器を実際に稼働させて直接的・間接的に収益を生み出さなければ、投資した資金の回収はできません。そのため、設備投資によって期待される収益を把握しておく必要があります。例えば医療機器の設備投資の場合だと、今まで算定できなかった診療報酬の手術料や処置料などが算定できるのか、それとも既存の算定項目と変わらないのか、何らかの施設基準を満たすことが可能になり、新しい収益が生まれるのかなどを算出して把握することが必要です。また、収益ではなくコスト改善が期待される設備投資の場合は、導入後どの程度の改善効果が予測されるのかを具体的な金額で算出する必要があります。

特に、設備投資による収益の増加を見込む場合は「利用者」という不確定要素の影響を受けるため、現実性の高い収益規模を見込む必要があります。起案部署が投資効果として収益の増加見込みを作成して稟議書に添付している場合がありますが、設備を導入するだけで収益が増加している非現実的な見込みを立てて来る場合もあるため、決裁者側も客観的視点に立って収益増加の見通しを検証する必要があります。本当に期待利用者数になるだけの市場規模はあるのか、また、対象となる利用者へのプロモーションをどのように行うのかなど、様々な視点で収益増加の実現可能性があるのか検証を行うことが重要です。

設備の稼働に必要なコストを把握する

期待される収益増加の見込みを適切に把握すると同時に気を付けたいのは、設備に関して必要とされるコストです。必要とされるコストとしては「設備導入コスト」「設備稼働コスト」「設備廃棄コスト」などです。設備廃棄コストまで考えるケースは多くはありませんが、法規制などで特殊な廃棄方法が要求され、廃棄に高いコストが要求される場合は想定しておく必要があります。想定されるコストはできるだけ挙げておくことが重要です。例えば下記のコストなどが考えられます。

【人的コスト】

・機器稼働に必要なスタッフの作業工数(利用者の対応、機器操作、機器整備などの時間)

・人材の採用や研修に必要なコスト(専門的な人材の確保、機器稼働に必要な研修など)

【物的コスト】

・機器や利用者に必要な材料(衛生材料、医薬品など)

・ベンダーメンテナンス(機器メンテナンス、バージョンアップ費用など)

【その他コスト】

・利用者へのプロモーションコスト(ホームページやパンフレットの制作など)

・院内システム連携にかかるコスト(電子カルテ連携、マスタメンテナンスなど)

・資金調達にかかるコスト(借入金による資金調達であれば借入金利息など)

想定されるコストは他にも数多く存在しますが、少なくとも直接的にかかるコストは算出し、稼働にあたりどの程度のコストが必要か把握する必要があります。

どの程度の期間で投資回収できるか把握する

「収益増加や付加価値改善の効果」と「必要なコスト」を月単位や年単位で適切に把握することで、およそどの位の期間で投資額を回収できるかを把握することができます。シンプルに考えると投資回収期間が短い、または投資効果が高いと判断する設備投資の案件については、決定の意思決定を下せば良いですし、反対に投資回収期間が長い、または投資効果が無いもしくは少ないと判断する設備投資の案件であれば、却下の意思決定を下せば良いのです。投資評価の判断手法としては「正味現在価値法」「内部収益率法」「回収期間法」など様々なものがありますがどれが良いというわけではなく、本質的に重要なのは医療機関や介護施設の経営者が、個々の設備投資の意思決定を適切な根拠に基づいて行うことができていることなのです。

今回のコラムのまとめ

設備投資の際の誤った意思決定を下さないためには、投資効果や設備稼働に必要なコストを適切に把握し、根拠に基づいた判断を行うことが大切です。設備投資は将来の組織の成長において必要不可欠なものであることは間違いありません。絶え間なく変化する利用者のニーズに沿った医療・介護サービスを提供するために必要な設備投資は行わなければ事業を続けることも困難になる場合もあります。しかし、医療機関や介護施設における設備投資は高額になる場合が多いため、誤った投資判断を行い実行してしまうと「借入金の増大」「経営資源の枯渇」「資金繰りの行き詰まり」などに悩まされ続ける結果になる陥るリスクも設備投資には潜んでいるのです。設備投資における最善の判断を下すためには、該当する設備投資が本当に事業価値を高めるものであるのかを見極める能力が経営者には必要となるのです。

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